Xリーグ

富士フイルムミネルヴァAFC
朝倉孝雄HCインタビュー
『丁寧に勝つ』チームを作る

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X1AREA所属の富士フイルムミネルヴァAFCが躍進に向けて新体制をスタートさせた。2月中旬には、早稲田大監督、桜美林大守備コーディネーターとしてチームを躍進させた実績のある朝倉孝雄・新ヘッドコーチの就任が発表された。就任間もない朝倉ヘッドコーチに、富士フイルムのコーチに就任した経緯と、チームの印象、将来のビジョンを聞いた。

富士フイルムは躍進を狙える
リソースが揃っている

富士フイルムでHCを務めることとなった経緯を教えて下さい。

朝倉 桜美林大学を昨年5月に退職してから、昨年は少しゆっくりしていました。フットボールにも関わっていませんでしたが、年明けから就職活動をはじめようとするタイミングでフットボール部を持たないいくつか大学から職員としてオファーを頂いていたのですが、そんな時に松井(孝夫)GMからお話をうかがいました。チームの再建と躍進を目指して本気で取り組んでいる状況が自分にとってとてもやりがいを感じられるものだったことが大きかったです。気持ちや意気込みはもちろん大切ですが、それだけでは再建や躍進はできません。その点、ミネルヴァAFCはスポンサーの富士フイルムがリクルーティングをはじめ、チームの運営をしっかりとバックアップしてくださっています。たとえば練習拠点の海老名は多くの選手にとっては少し遠い場所ですが、今シーズンから選手たちに交通費の補助が支給される体制を整えています。チームを再建し、さらに成長を続けていくための意気込みとリソースが揃っていたことに可能性を感じました。

社会人チームでのコーチ経験は?

朝倉 アサヒビールシルバースターで選手としてプレーしていた晩年は、選手兼任コーチみたいな形で練習メニューを考えたり、仕切りを担ったりという経験はありますが、本格的にXリーグのチームをコーチングするのは今回が初めてです。

学生に対するコーチングと社会人をコーチングする違いは?

朝倉 まだ練習が始まって2週間、ミーティングを入れて3週間が経ったばかりですが、学生との違いはフットボールに接する時間の圧倒的な少なさです。こんなことを言うと学生には失礼かもしれませんが、自分自身が学生だった時を振り返っても、学生にはどこか「サボるのが仕事」で、コーチの仕事は「いかに皆をやる気にさせるか」という部分が強いと思います。実際、学生をコーチしていた時はその部分に多くの労力を割いていました。一方で、貴重な自分の時間をフットボールに費やすことを自分の意志で決断して集まってきているXリーグの選手たちは時間を無駄にしたくないという意識が強いと思います。選手のモチベーションという点においては、社会人の方が高い位置からチームづくりを始められる状況にあると思います。しかし、社会人の中でもモチベーションのレベルの違いがあります。ライスボウル制覇を狙うようなチームに所属している選手や所属しようと思っている選手は、日本一になるという基準のモチベーションを持っています。X1AREAのチームの選手やそこでプレーしようという選手はとは考え方や基準の違いがあるというのも事実です。

目的とやるべきことを明確にし
集中力を持って取り組む

富士フイルムでは選手たちにどんなマインドセットをしていきたいですか?

朝倉 シンプルに『ゲームに勝つ』ということを強調していきたいと思っています。選手間でモチベーションの違いがあるのは当然のことです。一方で、休日の貴重な時間を費やしてフットボールに取り組んでいる選手たちが皆、根底に持っている共通の意識は『勝負に勝ちたい』という思いでしょう。勝てなければ、苦しいですし、段々フットボールがつまらなくなってしまうと思います。勝つためにはチームとして何が足りないのか、何をすべきなのか。この部分に対して真摯に向き合って努力していきましょうと、選手に伝えています。

富士フイルムの現在のポテンシャルはどう評価していますか?

朝倉 昨季は1勝5敗でしたが、内容は本来持っている力を出し切れていないがゆえの敗戦がほとんどだったというのが私の評価です。たとえば警視庁戦(●16対21)は、10対0とリードして前半残り1分37秒、自陣27ヤードから攻撃機会を得ました。状況としては最低でもFGで得点したい場面です。しかし、敵陣49ヤードまで進んだところでパントに追い込まれ、パントのスナップをミスして後逸してしまった上にブロックされ、相手に我々の自陣4ヤードでボールを押さえられてしまいました。結局、この場面で警視庁にTDをされてしまい、逆転のきっかけを与えてしまいました。こういったミスによって、ポテンシャルを発揮しきれない状況が生まれていましたので、まずは勝利という結果にたどり着くために、一つひとつの課題を丁寧に整理してクリアしていきたいと考えています。

課題を解決するために大切なことは?

朝倉 目的とやるべきことを明確にして、集中力を持って取り組むことだと思います。昨年は週2日間という限られた時間の中で練習とミーティングをするために、拘束時間が朝8時から夕方4時ごろまでと、非常に長時間になっていました。長時間になればなるほど、集中力は落ちてしまいます。それよりも、自分たちで決めた目的をはっきりとさせて、限られた時間の中で集中して取り組む方が上手く練習は回るのではないかと考えています。

1つ1つの試合に丁寧に勝つ
その積み重ねが成長と躍進につながる

早稲田大ではコーチとして甲子園ボウル出場、桜美林大学では2部リーグから1部TOP8で優勝争いをする躍進を経験する中でコーチとして得たものはありますか?

朝倉 ファンダメンタルとアジリティを徹底することが大切だということを再確認できたことです。早稲田大は高校で他競技に取り組んでいいた選手も多く入部してきます。彼らを4年間で戦力にしていくには、ファンダメンタルを徹底することがとても重要でした。桜美林で最初に取り組んだことも同じでした。今、富士フイルムにいる選手は、日大や法政といった関東のトップのチームにいた選手もいれば、中堅クラスや地方のチーム出身者もいます。まずは、練習方法やその意図を含めて富士フイルムのファンダメンタルを統一することが必要だなと思っています。当たり前のことをきっちりやりきる。やりきる文化をチームに植え付けていきたいと考えています。

朝倉さんの定義するファンダメンタルはなんですか?

朝倉 自分の中には大まかに3種類のファンダメンタルがあります。一つはそれぞれのポジションの特性に合わせて必要なファンダメンタル、もう一つはフットボール内で一般的に共通のファンダメンタル、そして、チームがそれぞれに練習で大切にしているファンダメンタルです。ヒット、ブロック、タックルなど全フットボール選手共通のファンダメンタルがありますが、その方法論はコーチによって異なるものだと思います。私は早稲田大をコーチしていた頃に培ったものをベースに桜美林大や富士フイルムで応用しています。

朝倉さんのコーチしているチームの練習を何度か拝見したことがありますが、ブロック、タックル、ヒットに多くの時間を割かれていますよね?

朝倉 そうですね。あとはアジリティも入っています。アジリティは言い換えると、体のさばき方なわけですが、フットボールがうまい選手=アジリティが上手い選手、アジリティが上手い選手=体の使い方が上手い選手だと思っています。

今季の富士フイルムのゴールは?

朝倉 選手にはX1AREA全勝優勝を目指そうと伝えています。今のチームの状況ではまず1つひとつの試合を丁寧に勝つというところから始めます。その積み重ねが入替戦出場やX1SUPER昇格につながると考えています。現在、X1SUPERの強豪は数チームに固定化されていますが、富士フイルムが将来的に強豪と肩を並べてわたりあえるチームになるためにも、まずは1つ1つの練習をきちんとやりきることをチームに浸透させていきたいと思っています。

■プロフィール
あさくら・たかお。1968年10月生。早稲田大学高等学院3年時に全国制覇。早稲田大ではLBとして活躍。4年時には主将を務めた。卒業後、アサヒビールシルバースターに入団。1992、1993、1999年度に主力選手としてライスボウル制覇を3度経験。その後、米国に留学しマサチューセッツ大学スポーツ経営学修士課程修了。2002、2010年には早稲田大コーチとして甲子園ボウル制覇を果たした。2016年、当時関東大学1部BIG8だった桜美林大の守備コーディネーターに就任。2019年シーズンにTOP8昇格、TOP8初年度の2020年シーズンに関東2位と躍進に貢献。2022年富士フイルムミネルヴァAFCヘッドコーチに就任

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